【インタビュー】根津栄子先生(千葉県市川市)
January 15, 2013
メールニュース巻頭インタビュー
第59回
根津栄子先生(千葉県市川市)
「子どもたちの心を開花させる魔法」
来たる2月28日、新刊「チェルニー30番 ~30のちいさな物語」(東音企画版)を出版される根津先生。美しい音が出せる子どもに育てるための練習方法や、子ども自らが弾きたくなるような工夫など、新刊を使った講座が春から全国で展開されます。
大のお花好きでも知られる根津先生に、ご自宅でインタビューをお願いしました。新刊も一部公開、必見です!
◆新刊に込めた願い
*「チェルニー30番 ~30のちいさな物語」発刊おめでとうございます。楽譜の特徴を教えて下さい。
多くのピアノ学習者が通る「チェルニー30番」を、学びやすいよう曲順を入れ替え、曲にイメージを持たせやすいよう、親しみやすいタイトル・かわいいイラストをつけました。無駄がなく、余計なことが書かれていません。逆に、あえて一部しか載せていない箇所もありますので、指導者が独自にヒントを得て、踏み込んだり広げたりして使うこともできます。アナリーゼの手引き、巻末「さらに理解を深めるために」に、やや専門的な楽典解説ページをつけましたので、子どもから大人の生徒さんまで、幅広くお使いいただけます。
*この楽譜が必要だと思われた理由を教えて下さい。
私はその昔、チェルニーの練習が嫌いで、曲ばかり弾きたがる子どもでした。練習も気が向いた時だけ、好きな曲しか弾かない、困った生徒だったのです(笑)。中3で音楽に進路を決めたのは、入試の課題曲を見て弾けそうだったから。その後合格はしたものの、テクニック不足から曲が思い通りに弾けず、苦しみ落ち込むことも多くて・・・大学生活は決して楽しいものではありませんでした(笑)。
*だからこそ、テクニックの重要性を感じていらっしゃるのですね。
はい、チェルニーで学べる、名曲へつながる基本テクニックの重要性を痛感しています。そしてテクニックは即席で身につくものではないことも・・・。無理、無駄がなく、本物の基礎トレーニングを短時間で毎日続けられるテクニック本を作りたかったのです。バスティンも、名曲につながるテクニックを学べますよね。
*バスティンを長年お使いいただき、ありがとうございます。
娘(根津理恵子さん/ピアニスト)にピアノを教えるため、色々なメソードを探しバスティンに辿り着いたのが28年前。その頃偶然聴いた、ピティナ・ピアノコンペティションの入賞者記念コンサートで驚きました。「導入期の子ども達がなぜこんなに上手なの?」って・・・聞けばみんなバスティンっ子だったのです。それからバスティンの虜になり、無我夢中で指導法を勉強しました。
*バスティンでの指導を通じて生まれた新刊なのですね。
生徒や娘の指導を通して、チェルニー30番を「小さな手でも弾けるもの、テクニックのないうちから弾けるもの」といった観点で並び替えました。また、字が読めない2,3歳児が、絵本とお母様の語りで想像力が育つように、楽譜でもまず目で見て想像し、弾きたい気持ちをかきたてるものが欲しいと思いました。この新刊が出る前は、私が曲に話をつけたり、生徒が曲の印象でタイトルをつけたりして絵本のようにして練習させていました。
*それぞれの曲名は実際に生徒さんがつけられたのですよね。
はい、個性が出ていて楽しいですよ。お父様と魚釣りに行くのが好きな生徒がつけてくれたタイトルが「楽しいつりぼり」(Op.849-6)、「やまめの追いかけっこ」(Op.849-4)。やまめなんてよく知っているなあ、と思いますよね(笑)。何度も魚釣りに出かけているらしく、発想が豊かです。バレエ好きで国立劇場の舞台にも抜擢された生徒がつけてくれたのが「バレリーナ」(Op.849-3)。片足を軸に、くるくる踊る様子が目に浮かびます。他のタイトルも皆、生徒たちがインスピレーションを湧かせて考えたものです。
*チェルニーの練習が楽しくなりますね。
はい。子どもの心が開いて、弾くのが楽しくなり、レッスンに来るのも楽しみになりますね。「えー、レッスンもう終わり?」と言ってくれる生徒に育てるための工夫の一つです。
*こんな風に使って欲しい、という思いはありますか?
「チェルニーを弾く前に」というページがあります。指と体の土台作りから練習方法、楽典、アナリーゼの手引きを載せていますが、ぜひ生徒さんの毎日の練習にご活用いただきたいと思います。「子どもには難しすぎるのでは・・・」と躊躇される先生、大丈夫です。初級の段階から、こういったものを少しずつ子ども達に与えていただきたいと願っています。
◆指導の信念
*ピアノ指導のモットーを教えてください。
少人数の生徒を大切に、確実に上達させることです。また、「強制ではなく、自発的にやりたくなる」、「自然に、知らないうちに身についている」ことがレッスンの目指す方向性です。コンクールは入賞するためではなく、練習過程で余裕がある時、モチベーションを上げたい時に活用するよう勧めています。
*ブログ「栄子のひとりごと~花日記~」には様々な情報を載せられていますね。
教室のホームページ、ブログ、facebookはよく活用しています。生徒さんへの連絡、親御さんにわかっていただきたいことは全て生徒連絡ページに書きますので、レッスンで改めて言うことはありません。レッスンに来たら演奏に集中。ソルフェージュの宿題やレッスン予約は、レッスン時間外に生徒さん自身がwebページを確認して行うシステムです。強制ではないので自然に自分から働きかける子どもになりますね。
*ブログのプロフィールに「好きなこと:子育て」とありますね。
はい、本当に楽しくて、あっという間に終わってしまいました(笑)。娘がおなかにいる時から毎日童謡やクラシック(特にバッハ)を聴かせていました。生徒さんも、その大切な一生をお預かりしますので、自分の子と同じように全身全霊で指導しています。演奏には人柄がにじみ出ますから、生徒がそれぞれ自分の考え方をしっかり持ち、演奏に生かせるように気をつけて接しています。
*具体的にはどのように接しておられるのですか。
小1までは母親感覚で、小2からは言葉遣いに注意して私と対等に会話ができることを求めています。良い言葉遣いや行いは演奏につながってくるものですから、例え幼稚園児でも「うん」ではなく「はい」と返事をさせます。生徒が「うん!」と言った時、指導者がすかさず「はい!」と言い続ければ、1か月後には自分から「はい!」と言える子になります。また、レッスンで習ったことは次回確実にできていることや、他との比較ではなく、常に今の自分を高めたいと思える心を持つことなど、レッスンがいつも真剣勝負であることを本人にも親御さんにも実感してもらいます。
*どの生徒さんにも本気のご指導なのですね。
私が避けたいことは、出来ないことを理由に泣くこと、また指導者や親御さんが何らかの代償に練習をさせることです。もので釣っても限界がありますから(笑)。普段は叱らない私ですが、大半の生徒が一度だけ泣く時があります。それは反抗期であることが多いのですが、その時には本気で叱り、よく話し合います。その後、目覚めたときを境に大きな成長が始まることが多いです。
*子どもにとってピアノって何でしょうか。
お花と同じ、人の心を癒し、自分自身も成長が楽しいもの・・・でしょうか。あたたかくやさしい気持ちにさせられる演奏会に出会うことがありますが、生徒たちにも人の心を幸せにする演奏、心を和ませる演奏ができる人に育って欲しいと願っています。ピアノは我慢でも苦しいものでもなく、自然体で楽しいものだから・・・。
◆ガーデニングと指導の共通点
*本当に素晴らしいお庭ですね。
毎日午前中、植物のお世話をして過ごしています。種から育てているお花もたくさんあります。1本の挿し木、1つの挿し芽から立派な鉢植えにまで成長させたものもあります。子供の頃からお花に囲まれた家に住むのが憧れでした。
*私はミントさえ枯らしてしまったのですが・・・育てるコツはありますか。
よく観察し、ちょっとした変化に気づくことですね。そして、失敗しても諦めないこと。何がいけなかったのか、当事者(ミント)の気持ちになって分析し、再チャレンジです。うちの庭にも病気をしたり弱ったりして集中治療の必要な植物を集めた場所があり、特に注意して見守っていますよ。子育て、生徒育ても同じで、心を込め愛情を注げばきっと育ちます。
*ガーデニングと指導には共通点がありそうですね。
ガーデニングから学ぶことはたくさんありますね。例えば、指導ではまず生徒の気持ちを読み、心が開いた時にテクニックを教えます。これは花が咲くための良い土壌作りに似ています。このように小さい子どもに種まきできる状態を作ること、健やかな成長のためソルフェージュ等の演奏以外の学びを与えること。そして何よりもご家庭のサポートが大切です。欠けるものがあると栄養失調になってしまいます。
*植物から学べることはたくさんありそうで、興味深いですね。
毎日の練習、良い習慣についてもそうですね。草取りなど手入れを少し怠っただけで、庭にはすぐ悪いものがはびこります。少しずつでも毎日良いものを与えることが大切です。また、種まきの後にすぐ結果を求めない忍耐も、お花たちから教えてもらっています。
*ありがとうございました。
春から各地で始まるお講座では、根津先生と植物、そして新刊からたくさん教えていただくことができそうですね!
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