【開催レポート】赤松林太郎先生セミナー「"きわだつ"演奏へのアプローチ」より
2014年12月11日(木)
メールニュース巻頭記事 第97回 人気講座開催レポート
「ギロック・ブルクミュラーから始まる『きわだつ』演奏へのアプローチ」
(赤松林太郎先生)
パーフェクト・セミナープラス2014の第8回は、全国での「特別レッスン」で大人気の赤松林太郎先生が登場しました。会場の東音ホールは空席ゼロの超満員。テーマは「ギロック・ブルクミュラーから始まる『きわだつ』演奏へのアプローチ」。ギロックの『こどものためのアルバム』、ブルクミュラーの『25の練習曲』から数曲を取り上げ、実に多彩なアングルから、音楽の捉え方・作り方や、実際演奏でそれらをどう際立たせるかをたっぷりとレクチャーしてくださいました。
「どんなオペラの舞台でも、大道具などの背景はとても大切です。歌い手がどんなに見事に歌っても、背景が場違いな様子を描いていたら台無しになりますよね。ピアノの演奏も同じことが言えます。右手のメロディーをどんなに大事に歌っても、左手の伴奏が音楽的に作れていなければ、まったく台無しです。音楽は伴奏から作る、そう考えて下さい。和声の志向性や、拍子をどう形成するかが大切になります」。
ギロックの『ウィンナーワルツ』では、左手で3拍子の裏拍をうまくコントロールすることが、ワルツらしさを形成するコツ。ウィーンのワルツとフランスのワルツではどう違うのか、はたまたポーランドのマズルカの3拍子を引き合いに出しながら、赤松先生はそれぞれの繊細な表現の違いを演奏と言葉で説明されました。
『舞曲』では、左右の手のバランスの大切さを強調した赤松先生。「左右の手のバランスは、音量だけで考えるのではなく、音質で考えさせましょう」。左手の和音の中でも、内声を出すべき小節とその理由、実際には弱くしても印象として強く残す効果など、赤松先生の説得力ある説明にフロアーの参加者たちが思わずうなずく場面も。
「『悲しいワルツ』。この曲のメロディーは大変ロマンティックですよね。しかし、たっぷり重く膨らませてしまっては、ロマン派の音楽というより、浪花節になってしまいます(笑)。ではどうしたら、ヨーロッパのロマン派らしい表現になるのか。それは音程に秘密があります」。そこで赤松先生はシューマンやショパンの作品を例にあげながら、4度や6度といった音程がロマン派的にどんな意味合いがあるのかを説明。音程関係を観察しながら旋律線を捉えると、クレッシェンドやルバートやペダル使いがどうあるべきか、理論的に趣味よく捉えられていくという仕組み。
さらに『手品師』ではユニゾンがもたらす「異化作用」、『サラバンド』では「音圧変化」、『ワルツエチュード』では「メタボにならないクレッシェンドの作り方」について、即レッスンに取り入れられそうなポイントを紹介されました。
ブルクミュラーでは、『素直』の演奏が「つまらなくなりがち」な理由はスラーの捉え方にあると赤松先生は分析。「スラーがかかっていればすべてレガートだと考えたり、レガートであれば全部の音の価値が同じだと捉えてしまうのはいけませんね。 右手の音型、そして音楽を支える左手の和声にきちんと着目すると、音楽に変化を付けられます」。
『アラベスク』は右手の同音反復に見いだせる音楽的表現の面白さ、『タランテラ』ではユニゾンのクレッシェンドの付け方(左右でバトンタッチさせるというアイデア!)など、すべて先生自らの演奏で例示しながら具体的に説明されました。さらに『狩猟』『せきれい』『バラード』を通じ、ファンファーレについて、音価や強弱記号の読み解き方について、単なる弾き方についてのテクニック紹介ではなく、あくまで音楽的な意味合いからアプローチされた赤松先生。
「こうした小品を通じて、ゆくゆくは生徒たちが自発的にショパンやシューマンやブラームスの音楽のドラマトゥルギーを捉えられるようにレッスンしてあげたいですね」という言葉で、2時間の充実した講座を締めくくられました。
文:飯田有抄(ライター)
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