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特集

フレディ・ケンプ
リサイタルとコンチェルト 2公演を聴く!



フレディ・ケンプ ピアノ・リサイタル
2006年11月12日(日)14:00
東京オペラシティコンサートホール
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フレディ・ケンプ ピアノ・コンチェルト
2006年11月14日(火)19:00
東京芸術劇場大ホール
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いまや世界中の主要ホールやオーケストラに登場する若き俊英、フレディ・ケンプ。リサイタルとコンチェルト二つの魅惑のプログラムをたずさえて、来日公演にのぞみます。

特集コンテンツ


中原昭哉氏(音楽評論家)が語る、ハンマークラヴィアソナタ。そして、ケンプの魅力。

フレディ・ケンプの魅力 −新しい演奏の美質− 文=中原昭哉

フレディ・ケンプの魅力  
−新しい演奏の美質 −

文=なかはら あきらや中原 昭哉 (ザ・シンフォニーホール会報誌シンフォニア11月号より転載)

 今年4月2日、ザ・シンフォニー・ホールで行われたフレディ・ケンプ「ピアノ・リサイタル2006」でベートーヴェンのソナタ第14番「月光」、第23番「熱情」、第29番「ハンマークラヴィア」が演奏されたが、このとき、私はケンプの演奏からこれまでにない新しい演奏の美質を感じた。

 その新しい演奏の美質のひとつは、先ずフレディ・ケンプの演奏の姿そのものにあった。いま、その演奏の姿を思い返すと、大きく三つの姿、即ちー静かに物思う姿 −夢見る詩人のような姿− 壮絶な力とスピードで立ち向かう姿− が目に浮かぶ。この三つの姿は、ベートーヴェンの「月光」、「熱情」、「ハンマークラヴィア」のいずれのソナタにおいてもフレディ・ケンプの演奏を強く特徴づけた。

 そして、ケンプの演奏を聴くうちに、私はケンプの演奏の姿勢にケンプ特有の美質を感じた。ケンプの演奏の姿勢は、先ず、強靱さと柔軟さを具えたピアノ・タッチ。次に、実に力性的に練り上げられた演奏の姿勢、それは、即ち、身体全体の重心がしっかりと腰に据えられ、両腕から頭、背中にかけての上半身の動作の精緻なコントロールと巧みなペダリングとが一体的に鍵盤上の指先の動きを決定づける。この演奏の姿勢は、曲に合わせて意のままに音の強さ、速さ、色彩を織り成すケンプの演奏表現と不可分な機能的役割を果たしているように感じられ、私の心を惹きつけたのである。
 
 気品に満ちた詩人のように舞台袖からピアノに向かうフレディ・ケンプ、そして、鍵盤にいったん指が触れるや、湧き出る泉のように音が流れ出る。「月光」、「熱情」のあと、最後の曲目「ハンマークラヴィア」の演奏が始まり、その演奏を聴くうちに、若い頃、昭和29年4月17日に宝塚大劇場で聴いたヴィルヘルム・バックハウスのベートーヴェンのピアノ・ソナタの演奏が私の心に蘇った。これまで50年近い年月、数々の著名なピアニストの演奏に馴染んできた私に29歳の若いフレディ・ケンプが「鍵盤の獅子王」と云われたバックハウスの演奏を思い起こさせ、そして、「ハンマークラヴィア」の最終楽章でケンプの壮絶な力とスピードで立ち向かう姿は、その抜きん出た才覚、卓越したピアノ技法、精通した曲想表現と相俟って、新しい演奏の美質を実感させたのである。
 
 1977年ロンドン生まれのフレディ・ケンプは、1998年、第11回チャイコフスキー・コンクールで3位入賞及び聴衆賞受賞、これを契機にケンプは世界各国にわたり幅広い演奏活動を行うこととなった。5年後、2003年6月28日、ケンプは京都コンサートホールでギュンター・ヘルビッヒ指揮、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を協演。このときに初めてフレディ・ケンプの演奏に接した私の印象は、品位に満ちた若い貴公子の奏でる「皇帝」の姿に止まり、まだ、演奏の美質を深く語るまでには到らなかった。
    
 しかし、今年4月、私はフレディ・ケンプのリサイタルのあと、ベートーヴェンのソナタの楽譜を見ながら、CDを通してフレディ・ケンプとヴィルヘルム・バックハウス、ヴィルヘルム・ケンプ、マウリツィオ・ポリーニの演奏を聴き比べ、また、昭和21年以降に来日した外来の演奏家のリサイタル・プログラムからレオニード・クロイツァ(1946年)、ヴィルヘルム・バックハウス(1954年)、スヴヤトラフ・リヒテル(1974年)、アシュケナージ(1977年)、ヴィルヘルム・ケンプ(1979年)、ペーター・ゼルキン(1984年)、アルフレッド・ブレンデル(1995年)、メルヴィン・タン(1996年)のベートーヴェンのソナタの演奏を振り返り、そして、フレディ・ケンプがリサイタルで私にもたらした新しい演奏の美質は、フレディ・ケンプの若い感性・活力と特有の力性的奏法、また、時として、静かに物思うように、時として、夢見る詩人のように、そして、時として、壮絶な力とスピードで立ち向かう姿がもたらす音楽の新鮮さであった。

 


本人直撃インタビュー! ”フレディ・ケンプの語る、今回のツアーへの抱負”

フレディ・ケンプ・インタビュー

写真
2006年8月某日 都内にて:

「一期一会」の聴衆と出会う瞬間=ライヴとは?
演奏の前にいつも行うおまじないは?
リサイタルとコンチェルトの違いは?

Q.ベートーヴェンのハンマークラヴィーアソナタについて御聞かせください。

 今までに何度もハンマークラヴィーアを演奏していますが、いつも、作曲家自身がどのようにこの作品を表現したかったのか、それを理解するために作品に取り組むようにしています。なぜベートーヴェンはこのような、技術的にも、精神的にも難しい作品を作曲するに至ったのか。初めてこの曲に取り組んだ時に、このような作品は自分の能力では到底表現できないのではないか、と思ってしまったような曲です。その後公演を重ねていくうちに、その疑問はより膨らんでいきました(笑)。でも今は、この挑戦をようやく楽しむことが出来るようになりました。この難曲を演奏すること、自分のものにすること、そして何よりも聴衆の皆さんにこの作品に込められたものを単純化しすぎずに、理解してもらえたら本望です。


Q.ピアノを演奏する際に、大事にしていることは何ですか?

 僕にとって一番価値があることは、感情です。聴衆との感情のコミュニケーションをすることです。一番わくわくする感情は、「インスピレーション」です。例えスポーツを観戦している時でも、友達と話している時でも・・・。自分の人生にさまざまなインスピレーションの感情を感じさせてくれるという意味で、音楽は素晴らしいと思います。 それは先輩に対する尊敬の感情だったり、家族への愛情だったり・・・。僕が演奏している時は、いつも自分が今弾いている音楽に一番強く結びつく力強い感情を探します。そして、可能な限りそれを大きなパワーで伝える努力をしています。

Q.ライブは「一期一会」の聴衆と出会う瞬間ですが、コンディションを万全にするために日頃から気をつけていることはありますか。

 コンサートに向けて万全の準備をして、たくさん練習をして、前の晩ぐっすり眠れて、それでも上手く行かない日があれば、前の晩ほとんど眠れず、練習する時間も取れなかったのに成功した公演もあります。僕たちはみな人間なので、一所懸命頑張ってもその日の運に左右されることも少なくありません。出来る限りのことをやっても、すべてをコントロールするのは難しいですね。

Q.演奏の前にいつも行うおまじない、みたいなものはありますか?

 あまりないですね。最近は舞台に上がるまえに聴衆の皆さんの席をのぞく癖があります。始まる5分前とか、30分前から5分前ぐらいの間に数回とか・・・。あまり色々考えすぎることはありません。待つのは退屈しますが、あまり遅く来てホールのマネジメントの皆さんを心配させるのもいやなので、遅刻はしないようにしています(笑) 。

Q. これからどんなレパートリーをやっていきたいですか。

 弾きたいレパートリーで言えば、今は減っているのですが、いつかはゴールドベルグ変奏曲をやりたいし、バルトークのコンチェルトも興味があります。でも今は、ピアノを弾くということよりも、聴衆の皆さんがどのように楽器に接しているか、ということに目を向けています。 今まではいつも自分の音楽、自分の演奏そのものばかりに注意を払っていましたが、逆にどれだけ聴衆の皆さんが静かに聴いてくださっているか、そこにあるピアノ自体の状態はどうか、あまり関心を向けていませんでした。僕の次なる目標は、クラシックというジャンルの僕のピアノを、新しい聴衆−つまり、クラシックコンサートに慣れていない聴衆−に知ってもらうことです。僕がいつも感動するのは、僕がコンサートをした後に、聴衆の方が「今までコンサートに行ったことがないと思うくらい、楽しめました」と言ってくださる時です。

Q.リサイタルとコンチェルト、違いはありますか?

 もちろん大きな違いがあります。一番大きな違いは「自由」ですね。オーケストラとどれだけのびのびできるかです。ソロのコンサートでは、自分で自分のコントロールをします。好きな時間だけ止まってもいいし、好きなだけ待ってもいい。ゆっくりしたりもできる。素晴らしい豪華なホールで、大勢の方の前で弾けて、みんな自分の音に耳を澄ませてくれる。でもその分責任も大きいです。ミスをしたり止まったりすればみんな気付きます。もちろんプレッシャーはそっちの方が大きいです。
コンチェルトの演奏では、オーケストラがたくさん音を鳴らしますから、必ず誰かが弾いているし、ちょっと間違えても実際あまり目立ちません。でも問題なのは、チームワークが大切だということです。自分の考えをオーケストラにいる何百人という人たちと分かち合わなければいけないので、あまりフレキシブルには行きませんし、甘くはありません。それでも、仲間と協力し合って素晴らしい音楽を創り上げるのは本当に興奮しますね。

ありがとうございました!



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