| 2011/03/24(木曜日) | Tweet |
|
![]()
〔英語版〕「マジックフィンガーテクニック」Book 1、2、3 (各700円+税/GP13・GP14・GP15)
連載 第5回「マジックフィンガーテクニック 他教材との併用と効果」(田中 巳穂)→バックナンバー
バスティン教材のテクニック教本、「マジックフィンガーテクニック」を4回にわたってご紹介してきました。最終回は、他教材との併用について、実践と提案を交えてお話していきたいと思います。
【教材の位置づけ】
≪計画&効果の確認≫
まず、
(1)レッスンの中でマジックフィンガーテクニックにどういう役割を持たせるか
を設定した上で、
(2)この本を使うことで、子どもがどう変わったか
を確認していくと、変化が実感できると思います。
(1)の計画は、Book1の所で提案した活用法の3つの柱、
・奏法
・移調
・初見
を子どもに合わせて決めていきますが、レッスンの流れの中に短時間で入れられるよう工夫します。例えば、他のテクニック教材のあとに初見+奏法の応用として1分間、ある時はマジックフィンガーだけを3?5分間移調アリで、または曲の合間のリラックスタイムに分析1分(弾かずに言うだけ)という風に、いろいろアレンジできます。
時には子どもに選ばせてもいいですね。
(2)は、短期的、長期的な複数の視点で見守ります。例えば奏法であれば、1回のレッスンの数分間で「2の指を丸くすることができた」(すぐに戻りますが・・)、いろんな方向から注意をうながし、数週間?数ヶ月のうちに「2の指の形が正しくなかったら、自分で気付いて改善できる」というように、変化が見られたらOKとしています。
子どもの変化をとらえて計画を修正していくうちに、マジックフィンガーを使った、その子一人のためのオリジナルメソードが出来上がります。
≪全調からの奏法アプローチ≫
全調メソードの定義をいま一度確認してみると、
「(導入期に)全長調12種の<5指のポジション>を総て学習する方法」(『効果的なピアノ指導法』ジェームス・バスティン著p.50)となっています。
5指のポジション、つまり各調のドレミファソの配置ですが、手の使いようによっては、これが大変難しいことにもなってきます。
元気のいい子どもの中には、1音弾くたびに手があらゆる方向に向くこともありますが、もともと手や体はピアノ仕様に作られている訳ではなく、CポジションやミドルCポジションにしても、「まだピアノを弾いていない手」にとっては違和感のあることでしょう。
まずは、ドレミファソに両手が載ること、その状態で「さあ歌える!」という気持ちになれたら、すでに「ピアノの手」が始まっています。
自由に伸ばしたり動いたりしたい手を、ひととき我慢してお行儀よく鍵盤にのせたら、音楽という乗り物に乗れますね。(私はこの状態を「静かな手」と呼んで子どもに伝えています。)
≪移調は作業でなくファンタジーをもって≫
次の段階として、ドレミファソには12のパターンがあって、それぞれに鍵盤の感触と音の雰囲気があることを伝えていきます。
いろんなドレミファソを手から出せるって素晴らしい、まるでマジック!そんな楽しさを子どもと分かちあうことが、この教材の位置づけとなってもいいのではないでしょうか。
蛇足ですが、5指ポジションの移調は音階の指使いとは異なるため、テクニックの種類としては、ポジション
移動の範ちゅうととらえています。黒鍵始まりの調も5指ポジションで弾くと、右手は親指始まりになるので、
腕を長く使う近代の奏法の導入にもなっています。腕に力が入っていると、親指の出し入れがしづらいの
で、ポジション移動の時に、脱力を教えます。もちろんすぐには定着しませんが、無駄な動きをしていると
次に間に合わないので、そのうち体が合理的な方法を覚えます。
【併用】
多くの教育者の言葉にあるとおり、どんな教材もそれ一つで完全なピアノ教育を提供できる訳ではなく、各教材に固有の傾向があります。そのため、併用するならば、違った傾向を補い合える組み合わせがいいと思います。
たとえば、「バーナムピアノテクニック 幼児のためのミニブック(紫色)」は、ミドルCメソードで書かれていて、全調5指のマジックフィンガーとは手の配置がちがいます。
また、「バーナムピアノテクニック 導入書(オレンジ色)」以降では、早い段階でほぼすべての配置が出てきますが、マジックフィンガーはBook 3まで、5指ポジションを基本に展開していますので、組み合わせ効果が期待できます。
≪併用の実践≫
バーナムピアノテクニック 幼児のためのミニブック(紫色)
・グループ1・・・両手の1から3までの指を使う
・グループ2・・・両手の1から4の指まで、6番以降全部の指を使う(ミドルC)
・グループ3・・・指かえし(親指をくぐらせる)
・グループ4・・・長調と短調、半音階導入、指かえ
・グループ5・・・8分音符(リズムとレガート)
バーナムピアノテクニック 導入書(オレンジ色)
ポジション的には前のミニブックで出揃っていますが、この導入書が最初に使われることも多いようです。
・グループ1・・・両手の5指ポジションが中心、右手音階
・グループ2・・・オクターブ、ジャンプ、交差
・グループ3・・・和音、親指をくぐらせる、重音
・グループ4・・・分散和音と和音、長調と短調、指かえし、半音階の最初
・グループ5・・・CDEFG各調の5指ポジション紹介
このような流れの合間に、保続音、アーティキュレーション、リズム、両手バランスなど様々なエクササイズが入ります。
マジックフィンガーは、冒頭に左手の小指が出てきますので、難易度としてはバーナム ミニブックがやさしいです。また、小指を弾く時には角度の問題もありますので、バーナムのどのあたりからマジックフィンガーを投入していくかを考えます。
(1)ミニブックと併用
(2)ミニブックが終わってから導入書と併用
(3)ミニブックはしないで導入書以降と併用
私の場合、最初から指導できる小学校低学年までの生徒さんには、(1)の方法をとっています。
ミニブックと一緒にマジックフィンガーBook 1も渡して、どの時点で使うかは様子を見ながら決めます。バラエティが好きな子であれば、最初から、本を開けずにマジックフィンガー1曲目を弾いてみて「これ弾ける?」などと持ちかけて、ついでに移調も一つ二つ試すことがあります。整ったことが好きな子には、グループ2の7番で両手の小指が出てきた所で「じゃあこんな形もやってみよう」とマジックフィンガーを開いてもいいですね。
実際によくある、途中からの生徒さんや、バーナム経験者を預かる場合は(2)、(3)になることが多いですが、この場合はマジックフィンガー3冊をセットで渡して、3冊ともレッスンに持ってきてもらいます。バーナムは宿題に出しますが、マジックフィンガーは最初宿題ナシにしていますので、置いて帰る子どももいます。
バーナムで2以降をしている人は、既にかなり難しい内容を一応弾いてきていますが、改善点があるかもしれません。そんな時、いきなりバーナムのレベルを下げるのではなく、マジックフィンガーで移調の勉強をしつつ、その関連でバーナムの導入書のココをもう一度、という風に持っていっています。
そうすることで、途中からの生徒さんにも、奏法の「まずこれだけは」を伝えることができますし、移調という新しい概念を紹介することで、ステップアップできた自信を持ってもらうことができます。
奏法の「まずこれだけは」は、指がまっすぐに上げ下げできること、としています。
≪効果≫
動きのバラエティのバーナムに対して、手を静かに使うマジックフィンガー、というとらえ方で併用しています。
「静かな手」の実際のイメージは、前回までのビデオの中で、子どもたちが音間違いをした部分にあります。耳で「あ、ちがう」と認識した時に、手をリセットしないで(バタバタさせないで)正しい音をさがせるようになることが、マジックフィンガーを通して期待できる効果といえると思います。
ここまで、バーナムとの併用を中心にお話ししましたが、ハノンをしている中高生、テクニック教材は使っていない愛好家の方にも同じアイディアで用いています。
もちろん、バスティン・ピアノベーシックス、ピアノパーティー等には「お誂えアイテム」として有効なことは、多くの先生が実証しておられます。
【おわりに】
楽曲や教材学習がメインとなるレッスンの、ほんの数分間のことについて細かく述べてきました。レッスンをデザインする上で、バランスよく効率的にこの時間を配置できたらいいなと思います。現実のレッスンでは、曲が始まってしまうと当然それが中心になってしまいます。もちろん曲の中で培っていけるテクニックはそれでいいのですが、こと導入、とくにバスティンでは「数こなし」と呼ばれるスピード感で、曲が進む時期もあります。読譜や曲作りのセンスを高めながらも、テクニックやメカニックの基礎はしっかりと欲しいと考えると、少し面倒ではありますが、それ専用の時間を確保し、よく考えられたツールを使っていきたいと思っています。
テクニック、メカニック、教材・・、言葉にすると乾燥したものになってしまいますが、せっかくピアノを選んだ子どもたちに、鍵盤に馴染み良く、この楽器で歌える手をプレゼントしたいと願うものです。同じ楽器から、一人ひとり全く違った音が出る不思議、子どもたち一人ひとりに「自分の音には個性がある、自分のピアノは代わりがいない」と思ってもらえたらいいですね。
ユーザー報告の一つとして、現段階でのとらえ方と実践を述べてきましたが、新たにこの教材を導入下さった先生もおられると聞き、嬉しく思っています。
いろいろな働きかけが子どもの役に立ちますように、そして、子どもたちがピアノを通して魔法の手、温かい手を育んで、それをいつか誰かのために使えるようになりますようにと夢見ています。
拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
♪当企画は東音企画の取材によるものです。
画像・動画等一切の権利は東音企画に所属し、転載は禁じます。
ご感想・お問合せがございましたら、東音企画までお願いします。
東京芸術大学、バンクーバー音楽アカデミー卒業。
第3回ピティナ・ピアノコンペティションE級銀賞(金賞なし)、カナダ音楽コンクールソロ部門第2位、室内楽部門第2位受賞。2000年トヨタ指導者賞受賞。社団法人全日本ピアノ指導者協会正会員。鳴門教育大学・大学院講師。